税務 節税

法人成りを考える個人事業主の方へ 税金徹底比較

「法人成りした方が税金面で有利と聞いたけど、具体的にどういうことかわからない。」という方に、今回は法人と個人事業主の場合でかかる税金を徹底比較し、どちらが有利になるのかを解説していきます。

個人事業主と法人にかかる税金の種類と税率

個人事業主と法人では、かかる税金が異なってきます。

税金には大きく分けて2種類あり、国に納める国税と各都道府県に納める地方税があります。それぞれに分けて、個人事業主と法人でかかる税金を比較します。

区分個人事業主法人
国税所得税法人税
消費税消費税
特別復興所得税法人特別所得税
地方税個人住民税法人住民税
個人事業税法人事業税
地方消費税地方消費税

税金の制度比較

まず、下記の表をご覧ください。

 個人事業主法人
決算月12月31日自由
確定申告2月16日~3月15日決算日より2か月
損失繰越3年間(青色申告の場合)10年間

個人事業主と法人どちらも会計期間を1年で区切る決算を行わないといけません。個人事業主は、1月1日に事業年度が始まり、必ずその年の12月を決算月としなければいけません。一方で法人の場合は決算月をいつでも設定することができます。例えば、4月1日から事業年度を始め、そこから1年間で区切り3月末を決算とすることが可能です。

さらに、個人事業主と法人どちらも、決算をむかえたら1年の税額を確定させ、申告を行わなければなりません。個人の場合は決算月が12月で固定されていることから、申告も2月16日~3月15日の間に行うように期日が固定されています。一方、法人は決算日より2か月以内に申告を行うように定められています。

また、個人事業主(青色申告の場合)と法人共に、損失が出た場合はその損失を翌期以降に繰り越して、利益が出た年に相殺して税金を出すことができます。例えば1年度に△10万円の損失を出して2年度に+100万円の利益を出した場合。2年度の利益+100万円から、1年度の損失△10万を差し引いた90万円に税金がかかります。つまり、10万円にかかる税金分だけ税金が安くなります。

上記を「損失の繰越控除」といいます。個人事業主は3年間、法人では10年間損失を繰り越すことができます。

税率比較

上記の説明で、個人事業主と法人共に複数の税金がかかることがご理解いただけたと思います。そうした税金の中で大きな割合を占める個人事業主の所得税と、法人の法人税について税率を比較してみます。

個人事業主にかかる所得税は所得の大きさによって段階的に税率が高くなり、5%~45%の税率が課されます。一方で法人税の場合、資本金の金額や法人の種類に応じてかかる税金が変わってきますが、法人税の最高税率は所得税の最高税率より低いです。資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税では所得800万円以下の部分は15%、800万円を超えた分には23.2%の税率が課せられます。

所得が800万円とした場合、所得税の税率は23%、法人税の税率は15%で済むため、法人化した方が節税メリットを得られる可能性があります。そのため、所得が800万円ほどになった時点で、一度税金のシミュレーションをして比較してみることをおすすめします。

ただし、これは単純に所得税と法人税を比べた場合で、他にもかかる税金があることや社会保険の加入義務、経理業務の複雑さの違いといったことを考慮して検討することをおススメします。

法人にかかる税金 

法人にかかる税金は主に、法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税・消費税及び地方消費税の6つになります。ここではそれぞれの税金の仕組と、どのように税金がかかってくるのかを1つ1つ解説していきます。

 法人税

法人税とは法人が事業活動で得た利益にかかる税金です。計算式は「課税所得(利益)×税率-税額控除額」になります。税率は最大23.2%で、益金や損金といった調整額を加味した上で税額が算定されます。

多くの場合、法人にかかる税金で大きな部分を占めることになりますが、法人が利益を出していないと基本的に法人税はかかりません。

 法人住民税

法人の所属する自治体からかかる税金で、「法人税割」と「均等割」から構成されています。税率は自治体によって変わりますが、ここでは東京都の場合で説明します。

東京都の場合、資本金額と法人税額で税率が異なるので、まずは下記のチャートでどちらの税率が適用されるか確認してみてください。

法人住民税の法人税割判断チャート

法人税割は法人税額(税額控除前の税額)×税率で求めます。上のチャートで「超過税率」と「不均一課税適用法人」のどちらにあてはまるか確認したら、下の税率表を見て、適用される税率を見つけてください。

区分税率(%) 
令和元年10月1日以後に開始する事業年度 
不均一課税適用法人の税率(標準税率)超過税率
23区内に事務所等がある場合7.010.4
(道府県民税相当分1.0+市町村民税相当分6.0)(道府県民税相当分2.0+市町村民税相当分8.4)
市町村に事務所等がある1.02.0
場合

次に均等割ですが、主となる事務所がある自治体によって税金のかかり方が変わります。東京都の場合、法人の資本金額と従業員数に応じて、税金が一律に決まります。法人税割と違い、所得額に関係なく、固定で税金がかかります。

例えば、東京都の特別区内に事務所があり、従業員50名以下、資本金1,000万円以下の場合、均等割の額は一律70,000円です。特別区がどこかは東京都のホームページで確認できます。均等割は例え法人が赤字でも発生する税金なので注意してください。

以上より、法人住民税は法人税割と均等割の2つの合計金額がかかってきます。

 法人事業税

法人税は事業税の税額は「課税標準×税率」で算定されます。一般的な法人は「課税標準=課税所得」ですので、利益の額に応じて税金が決まります。一方で、資本金1億円超の法人では算定方法が変わり「所得+付加価値額+資本金額」が課税標準となります。

資本金1億円以下、年間所得2,500万円以下であれば、下記の税率が適用されます。

年間所得税率
400万円以下の部分3.50%
400万円超800万円以下の部分5.30%
800万円超の部分7%

 特別法人事業税

こちらは国税で、計算式は「基準法人所得割額または基準法人収入割額の標準税率相当額×税率」になります。基準法人所得割額または基準法人収入割額とは、ざっくり言うと法人事業税の額に相当します。

税率は下記表をご参照ください。

課税標準額法人の種類税率
基準法人所得割額外形標準課税法人・特別法人以外の法人37%
外形標準課税法人260%
特別法人34.50%
基準法人収入割額小売電気事業等・発電事業等及び特定卸供給事業を営む法人以外の法人30%
小売電気事業等・発電事業等及び特定卸供給事業を営む法人40%

 消費税及び地方消費税

特定期間(2事業年度前の期間)の課税売上高が1,000万円超の法人には消費税が課されます。計算方法は「預かった消費税(基本的に売上の消費税分)-支払った消費税(基本的に仕入や経費の消費税分)」によって計算されます。

個人事業主にかかる税金

個人事業主にかかる税金は所得税・復興特別所得税・個人住民税・個人事業税・消費税の5つです。個別に説明していきます。

 所得税

所得税は1月1日から12月31日までに個人が得た所得に対して課される国税になります。個人事業主だと事業所得になり「(売上-必要経費-所得控除)×税額-控除額」で求められます。所得が高くなるほど税率が上がる超過累進税率を採用しています。

各所得毎の税率及び控除額は下記をご参照ください。

課税所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超~390万円以下10%9万7,500円
330万円超~695万以下20%42万7,500円
695万円超~900万円以下23%63万6,000円
900万円超~1,800万円以下33%153万6,000円
1,800万円超~4,000万円以下40%279万6,000円
4,000万円超45%479万6,000円

 復興特別所得税

復興特別所得税は所得税額に対して税率2.1%をかけて算出する税金です。例えば所得税額が70万円の場合、70万×2.1%=1.47万円になります。

個人住民税

個人住民税は均等割と所得割によって構成されています。均等割は所得に限らず定額の税金がかかり、金額は各自治体によって異なります。所得割は前年の所得に10%をかけた額になります。

 個人事業税

個人事業税は課税対象の業種と、一定額の事業所得を超えた場合に課税される税金です。税率や課税対象の業種は各都道府県によって異なります。

計算式は「(事業所得+青色申告特別控除+事業主控除)×税率」で、税率は3~5%程度、事業主控除の金額は290万円になります。収入が290万円以下なら課税対象から外れます。

 消費税及び地方消費税

消費税は前々年の課税売上高が1,000万円超の場合に課される税金で、法人と同様の計算式で算出されます。

税金・費用・作業比較12選

個人事業主と法人でかかる税金や費用、経理作業について比較していきます。法人成りをする方が得なのかどうかについての判断材料にできると幸いです。

 設立費用は個人がお得

個人事業主が開業する場合「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出するのみで済むため、自分で手続きをするのであれば費用はほぼかかりません。

一方で株式会社を設立する場合、設立費用で最低でも25万円ほどかかります。法務局に法人の概要を登記する必要もあり、記載の手間が相応にかかります。

登記は役員変更や本店の移転、決算時期の変更、増資を行った時など、その度に登記が必要になります。

事業の開始設立という観点でみると、個人の方が有利です。

 消費税の免税制度は個人がお得

消費税は課税期間の課税売上高が1,000万円以下の場合に免税となります。個人事業主であれば前々年度、法人であれば前々事業年度になります。

そのため、個人事業主でスタートすると2年間消費税が納付免除され、その後法人化すればさらに消費税が2年間納付免除されることになり、最大4年間消費税が免除されます。ただし、法人化する場合の資本金が1,000万円未満であることが条件です。

消費税の免税制度を最大限活用するのであれば、個人からスタートした方が有利です。

法人は給与所得控除を適用できる

法人化すると、事業主の収入は“給与”という形で法人から支給されるということになります。

給与所得の計算においては、会社からもらった給料全てに税金がかかるわけではなく、給与から一定の額を控除し、その残りに所得税が課されるという形です。

給与等の収入金額給与所得控除額
162.5万円以下55万円
162.5万円超 180万円以下収入金額×40%-10万円
180万円超  360万円以下収入金額×30%+8万円
360万円超  660万円以下収入金額×20%+44万円
660万円超 850万円以下収入金額×10%+110万円
850万円超195万円(上限)

例えば、給与所得が800万円であれば上記表に照らすと、「800万円×10%+110万円=190万円」が控除され、給与所得800万円でも610万円にしか課税されないことになります。

ここで、会社にかかる税金の計算において、実際に支払った費用の中から領収書があるものを会社の経費とすることで、会社の利益から経費を差し引くことで法人税を安く済ますことができます。

さらに、そこから事業主へ支払った報酬の内、一定割合を給与所得控除として領収書無しで控除することができるため、その分税金面で得することができるということです。

給与所得控除を考える場合、法人の方が所得税上で有利になります。

法人は家族と所得分配で節税できる

所得税は所得の金額が大きくなるほど税率が上がっていくため、1人で1,000万円の所得を得るより、世帯主と配偶者で500万円ずつ所得を分配した方が税金が安くなります。

法人を設立して配偶者を法人の役員として働いてもらい、自分と配偶者に給与を分けて支給することで、税金を安くすることが可能になります。

個人事業主の場合も「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出すれば家族への給与を経費にできますが、届出書に記載した金額を上回った分の給与は経費とすることができません。また、白色申告の場合は、配偶者なら最大86万円、それ以外の専従者には1人当たり50万円までしか経費とすることができません。

所得税の税率を考える場合、法人の方が有利になります。

経費にできる範囲は法人がお得

法人の方が経費として税金を引くことができる範囲が広いです。

例えば住宅費用に関して、個人事業主は居住部分を経費にすることができません。しかし、法人であれば賃貸契約を法人で行い、役員の借り上げ社宅として取り扱うことによって、居住部分でも家賃のおおよそ50%を経費にできます。

他に、生命保険料は個人であれば最大12万円しか控除できませんが、契約者と受取人の両方を法人として生命保険に加入することで、社長に対する生命保険でも支払額の全額を経費にできます。年間保険料が50万円だとしたら、38万円も控除額に差が出ることになります。

出張手当も見逃せない部分で、法人であれば、旅費交通費の他に社長にも別途「出張手当」を支給することができます。この場合、事前に「旅費規程」を作成し、出張手当の金額を明記しておくことで、会社として出張手当を経費扱いにできます。その上、社長個人の所得税に対しても、出張手当は非課税になるため重宝します。

また、個人事業主は身内の冠婚葬祭費用はプライベートな支出として経費として認められないのですが、会社を設立し「慶弔規程」を整備することで、その範囲で見舞金や弔慰金、出産祝いなど慶弔規程に基づく範囲で経費にすることができます。

経費による節税を考えた場合、法人の方が圧倒的にお得です。

 交際費は個人がお得

交際費について、個人事業主は全額経費にできますが、中小法人であれば年間800万円または飲食費の50%までしか経費にできません。

交際費に関して言えば、個人事業主の方が有利です。

 社会保険は場合による

会社を設立すると、原則として社会保険への加入が義務付けられます。そのため、会社として負担すべき社会保険料が発生します。

個人事業主の場合は社会保険の健康保険と厚生年金保険に加入できないので、代わりに国民健康保険と国民年金保険に加入する必要があります。

国民健康保険と、社会保険の健康保険では保険料が大きく違っており、国保の最高額が99万円なのに対し、社会保険の健保は給与額が高くなればなるほど負担が多くなる仕組みです。

しかし、社会保険の健保には、傷病手当金や出産手当金など、健康保険にしかないメリットもあります。

社会保険に関して言えば、個人事業主と法人でどちらが有利化はケースバイケースになります。

 事業承継は法人がお得

個人事業主の場合、事業主が亡くなると、故人名義の口座が凍結されてしまいます。遺産分割が決まるまで1円も引き出せなくなります。

一方、法人の場合、会社が所有する財産は会社に所有権があるため、社長が亡くなっても会社の口座が凍結されることがありません。また、生前に財産を株式化することで、後継者への財産の移転が容易になります。次の社長を決めて登記すれば、事業がスムーズに承継されます。

事業を継がせる観点からは、法人の方が有利です。

 赤字の繰越は法人がお得

「青色欠損金の繰越控除」という制度により、節税できる可能性があります。これは、青色申告をしている事業者が赤字になった場合、その赤字分を翌年度に繰り越して、黒字だった期に相殺できる、という制度です。

個人事業主で青色申告を行っている場合、損失の繰越期間は3年間、一方で法人で青色申告を行っている場合は損失の繰越期間が10年間になります。

赤字の繰越で相殺できるという点では、法人の方が有利です。

 経理作業・申告の煩雑さは個人がお得

日々の経理作業という点では、個人事業主の方が圧倒的に楽になります。法人の場合、法人税法が定める帳簿や決算書を作成する上、税金の申告業務も非常に煩雑です。

個人事業主であれば自分で会計ソフトを使って経理申告業務ができていたという方でも、恐らく法人の経理申告業務はできないと思われます。無理に自分でやろうとすると、法人税の申告を間違えて追徴課税として高い税金を支払うことになる場合があります。そのため、法人の場合は税理士といった専門家に業務をお願いすることになり、その分の報酬費用が発生します。

経理作業・税金の申告という点では個人の方が有利です。

税金シミュレーション比較_個人と法人でどう違う?

ここでは、個人事業主と法人の場合でどれだけ税金が違うのかシミュレーションしてみます。

個人事業主の事業所得が600万円、扶養者が専業主婦の妻1人というケースを想定します。

法人については役員報酬を除く会社所得600万円、さらに個人事業主と比較しやすいように極端なケースを想定し、社長が会社収入全てを自身の役員報酬600万円として受け取ることとし、最終的な会社所得は600万円とします。(この想定だと、法人の場合の税金がおおむね一番高くなります。)

 個人事業主法人
保険料支払928,416円928,416円
所得税+復興特別所得税311,000円171,500円
法人税等70,000円
住民税378,600円278,000円
事業税155,000円0円
1,773,016円1,447,916円
差額325,100

シミュレーションすると、法人化することで、325,100円の節税になりました。この想定では法人の場合の税金合計は恐らく1番高くなるので、社長への報酬を抑える形にすることでより節税額が大きくなります。

税計算は税理士に頼むべき?かかる料金も含めて比較

法人成りをすると結局いくらかかるのか、という観点で書く

法人成りした場合、税計算が複雑になります。税知識が無い方が独力で税計算を行うのは実質的に無理と考えた方がいいです。税理士に税務業務を依頼する場合、年商1,000万円までであれば、相場は月額1万円から、決算で10万くらいから、合計で20数万円ほどかかります。しかし、法人の税計算を無理に自分でやろうとすると、申告間違いで追徴課税を負うことになる可能性があるので、法人成りした場合は税理士に依頼をするのが妥当です。

また、法人を設立する場合は個人事業主の場合に比べ手続が煩雑になるため、税理士に会社設立を依頼した方がよいです。その場合、税理士手数料約5万、司法書士手数料約5万円で計10万円追加でかかると考えた方がよいでしょう。

まとめ

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。節税の観点で考えると、法人の方が基本的に有利になります。しかし、法人化することで設立費用が30万円程かかることや、経理税務業務が複雑になることは把握しておきましょう。

また、個人の住民税に加え法人の住民税も加わるため、儲けがでていなくても10数万円の税金が引かれますので、その点も考慮して法人成りするかを判断するとよいです。

自身がやっている事業の年商が大きくなればなるほど法人が有利のため、これからどんどんと業務を拡大していくつもりであれば、早いうちに法人成りするタイミングを決めておきましょう。

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